《ニュース》グーグルが狙う次の覇権は「医療」、AIで画像診断に革命

グーグルが狙う次の覇権は「医療」、AIで画像診断に革命
5/22(火) 6:00配信 DAIAMOND omline

https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20180522-00170503-diamond-bus_all

 米グーグルが最新の取り組みを披露する開発者向け会議「グーグルI/O」で、AI(人工知能)の有効な応用先として強調されたのは医療だった。ITの巨人は医療の世界をどう攻略するのか。その戦略に迫った。(「週刊ダイヤモンド」編集部 大矢博之)

 ビーチバレーのコートで社員が遊び、巨大な恐竜の化石の模型が目を楽しませてくれる米国マウンテンビュー市のグーグル本社。まるでリゾートのような中庭に面する41番ビル2階の小部屋に、グーグルが開発中の特別な顕微鏡がある。

 顕微鏡にセットされていたのは、乳がんの組織切片だ。専門的な訓練を積まなければ、顕微鏡をのぞき込んでも、どこにがん細胞があるのかを見分けることは難しい。ところが、この顕微鏡ではそんな心配は要らない。なぜなら、がん細胞の位置をAI(人工知能)が教えてくれるからだ。

 顕微鏡をのぞき込むと、蛍光ペンで描いたような緑色の線に囲まれた領域があった。この中にあるのが、がん細胞だ。

 顕微鏡を操作して、視野や倍率を変えても、緑色の線は画面の動きに合わせて、がん細胞の位置を示し続けた。

 これが、グーグルが開発中のAR(拡張現実)顕微鏡である。

 開発に使われている顕微鏡は、グーグルが画像診断で提携しているニコン製。光量調整用のペンライトを、チューインガムを使って貼り付けている工夫から、“グーグルっぽさ”が伝わってくる。

 AR顕微鏡の仕組みはこうだ。まず、数千枚の乳がんの画像をAIに機械学習させ、がん細胞を見分けられるように教え込む。

 そして、顕微鏡にはカメラと小型の投影機が取り付けられている。カメラが撮影した画像をコンピューターに送り、学習済みのAIが処理してがん細胞の位置を示す線を描く。その線の画像を、顕微鏡をのぞき込んだときの画面に重ね合わせて表示しているのだ。

 乳がんを見分けるだけでは、AIやARに関するグーグルの技術力を誇示するデモのように感じるかもしれない。だが、AR顕微鏡は、グーグルが医療分野で狙う壮大な野望の第一歩にすぎない。

 「現在は乳がんと前立腺がんに焦点を絞って開発を進めているが、AIが学習する画像データを変えることで、がんだけでなく、結核やマラリアなどの診断にも応用できる。カメラとコンピューター、投影機の三つの部品を追加するだけで、どんな顕微鏡でもAR顕微鏡に変えることができるプラットホームをつくりたい」(マーティン・ストンプ・グーグルAI病理プロジェクトテクニカルリード)

 AR顕微鏡があれば、がん細胞をはじめとする病気の兆候に見落としはないかと、気を張り詰めて顕微鏡を見続ける医師の負担の削減につながるだろう。顕微鏡を使ったあらゆる病理診断を、AIが支援できるサービスをつくる。この応用範囲の広さこそが、AR顕微鏡が秘める真のすごみなのだ。

● 網膜画像で肥満が分かる

 5月8日、グーグルの開発者向け会議「グーグルI/O」の基調講演。昨年のこの場で「AIファースト」を宣言したサンダー・ピチャイCEO(最高経営責任者)は、「AI for everyone(全ての人のためのAI)」を今年のテーマとして掲げた。

 そして、AIの具体的な応用例に力点が置かれた講演で、ピチャイCEOが「AIが革新をもたらす最も重要な領域」と述べ、真っ先に紹介したのが医療だった。

 グーグルが昨年発表した成果の一つが、糖尿病性網膜症と呼ばれる、日本でも成人の失明の原因1位となっている病気の前兆の発見だ。患者の網膜の画像をAIに機械学習させ、医師より高い精度で失明の前兆を検出できることを示した。

 それから約1年。グーグルは網膜の画像からより多くの情報を引き出すことを、AIに教え込んだ。

 患者の年齢や血圧、肥満度、喫煙の有無──。こうした心血管系疾患のリスク要素を把握するためには、人間の医師は患者の血液検査や問診をする必要がある。ところが、AIは網膜の画像を見るだけで、リスク要素を予測することができるようになったのだ。

 具体的には、約28万人分の網膜の画像に、年齢や血圧などといったデータをひも付け、AIに機械学習させたという。失明の前兆の検出と基本的な原理は同じだ。

 「人間が診断ルールを教えなくても、大量のデータがあればAIは心臓発作のリスクなどを予測できるようになる。これが機械学習の素晴らしい力だ」と、リリー・ペン・グーグルAIプロダクトマネジャーは強調する。

 グーグルI/Oの会場には、グーグルと共同研究する医師が開発した、網膜の画像を撮影する眼底カメラが展示されていた。記者も試してみたが、撮影は10秒足らずで終了。医師は撮影した画像をその場で示し、「健康だね!」と笑顔で伝えてくれた。

 網膜の画像から予測できることが増えれば、診断の光景を一変させる可能性すら秘めている。

 この他にも、約21万人分の患者の電子カルテデータを学習させ、病院を訪れた患者に今後何が起こるのかを予測するAIをグーグルは開発。「長期入院するか」の判定では、従来法の予測スコア(1に近いほど完璧)は0.76だったが、グーグルのAIは0.86とより高精度に予測できるという。

 AIを使った医療の新サービスは、広告という現在のグーグルの収入源との相性は悪そうだ。ただ、グーグルの研究者にビジネスモデルについて尋ねても、「まだ研究開発段階で、広く使ってもらえる技術になることを優先している」という答えが返ってくる。

 とはいえ、こうしたAI診断が広まれば、グーグルが稼ぐことは容易だろう。サービスの販売で収入を得てもいいかもしれないが、それよりもグーグルが選びそうな道は、AIの学習時などにグーグルクラウドを使ってもらい、そこで収入を得る方法だ。

 収益化よりも普及を優先することはグーグルの常とう手段で、実際、あるAIサービスを開発するグーグルの担当者は、グーグル創業者のラリー・ペイジ氏に、こう告げられたという。

 「素晴らしいサービスをつくることに集中しなさい。誰もが必要とするサービスは、価値を生む。マネタイズの心配なんてするな」

 年間10兆円近い広告収入という豊富な資金力を背景に、誰もが使いたくなるサービスの開発に愚直に注力できることも、グーグルの強さの真骨頂なのである。

 米フェイスブックのデータ不正流用問題をきっかけに、グーグルや米アマゾンをはじめとするITの巨人たちが、データを“独占”することに対して非難する機運が高まっている。そうした環境下で医療への進出を鮮明にした今回のグーグルの発表からは、AIが社会に役立つことを前面に押し出し、データ独占に対する批判をかわすしたたかさが感じられた。

 いつの間にかグーグルの検索や地図サービスが日常生活に欠かせない存在になっているように、医療の世界でも、近い将来グーグルの技術が欠かせない存在になるだろう。

 ──なぜAIは網膜の画像から心血管リスクを予測できるのでしょうか。

 私見ですが、人間は大きな原因を見つけることが得意です。糖尿病性網膜症の場合は、目の中の小さな出血が、失明の前兆です。一方、網膜の画像には医師が気付きにくい小さな変化があり、そうした小さな変化の積み重ねが、全体として大きな影響を及ぼす可能性があります。

 がんの場合でも、医師はがん細胞がどこにあるかは発見できます。ただ、がん細胞は周囲の環境から影響を受けていて、周辺の環境の違いが今後のがんの進行やリスクに影響することが分かっています。こうした全ての情報を考慮して判断することは医師にとって難問で、これこそがAIの得意分野なのです。

 病気の前兆は何かと聞けば、医師は画像の特定の領域を的確に示してくれるでしょう。一方、AIは画像全体を見て判断を下すのです。

 ──AIが医師の仕事を奪うと懸念する声も上がっています。

 患者を救うため、医師は新たな技術を医療に取り入れてきました。将来はAIも使うようになるでしょう。私がよく使う比喩は、体温計です。体温計の登場で、熱があるかどうかは、体温というデータで正確に診断できるようになりました。

 現代の医師は、大量かつ複雑なデータを診断の際に精査する必要があります。こうしたデータに優先順位を付けて整理し、医師の時間を節約する道具として、AIには大きな可能性があります。そして、従来は膨大過ぎて考慮に入れられなかった全ての情報を活用して診断できることは患者の利益につながり、AIが本当に役立つ部分だと考えます。

 ──サンダー・ピチャイCEOからはどんな指示を受けていますか。

 サンダーはいつも、「自分が正しいことをしているかどうかを確かめなさい」と助言してくれます。機械学習やテクノロジーを誰もが使えるようにすることがグーグルの行動原理であり、われわれは医療の分野でこれに取り組んでいます。

週刊ダイヤモンド編集部

2018年05月23日