《ニュース》障がい者の雇用、どう増やすのか?

障がい者の雇用、どう増やすのか?
5/20(日) 12:13配信 Wedge

https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20180520-00010000-wedge-soci&p=1

 企業経営者は従業員のうち一定比率の障がい者を雇用しなければならない。オフィスや工場の中で障がい者に働いてもらう場を見つけることは容易ではなく、半数の企業が雇用比率は未達。その難題を解決策しようと、企業に成り代わって障がい者が喜んで働ける場を会社の外で提供している会社がある。

 しかし、障がい者雇用対策を行う厚生労働省は、あくまで当該企業の下での雇用が望ましいとみている。一方で、会社中で障がい者の能力を生かして働ける場所を見出している企業もある。障がい者雇用の現場をリポートする。

雇用比率引き上げ
 厚生労働省は「障害」に関係なく希望や能力に応じて働ける「共生社会」の実現を目指して、「障害者雇用促進法」により民間企業や国や地方公共団体に対して一定比率の法定雇用率を義務付けている。従業員が50人以上の企業は、従業員の2.0%以上の割合で障がい者を雇用しなければならかったが、今年4月1日からこの割合が2.2%に引き上げられ、対象となる企業の従業員は45.5人以上からと拡大される。さらに3年後には雇用比率が2.3%にまで引き上げられることが決まっている。

 引き上げの理由は、精神障がい者が増えているのに加えて、「障害者就業・生活支援センター」のような地域での障がい者の就労支援体制が充実し、企業内でも精神障がい者を雇用するためのノウハウが蓄積され、社会全体で障がい者雇用を進める環境が整ってきているためだ。このため経営者としては、障がい者雇用義務がこれまで以上に課せられる。民間企業に雇用されている障がい者数は14年連続で過去最高を更新しており、2017年6月1日現在で49万6000人で、雇用率は1.97%、法定企業雇用率達成割合は50%と改善してきている。しかし、数でみると半分の企業が未達になっている。

 障がい者雇用比率が未達の企業は、従業員規模の小さいほど多い。大企業では障がい者雇用のための別会社(全国で約460社)を設立しているところが多く、工場やオフィスの仕事の中から、障がい者に合った仕事を見つけやすいが、中小企業や販売会社の場合はふさわしい仕事を見つけるのが難しいという現実がある。

農園で働いてもらう
 そうした中で、障がい者を働かせる場を見つけられなくて困っている企業に対して場所を提供するビジネスを展開している会社がある。エスプールプラス(東京・千代田区)という企業で、いままで就職経験のない重度知的障がい者が働ける場が見つからない企業と契約をして、同社が運営する農園を企業に区分けして貸し出す。知的障がい者を中心にビニールハウス農園で働いてもらい、レタスなどの野菜を栽培する。企業は農園の利用料などを払い、障がい者をその農園で雇用しているとみなされる。

障がい者の雇用、どう増やすのか?
ビニールハウスの中は清潔感にあふれている。
 千葉や愛知県に10カ所の農園を開き、193社の企業の障害者約900人がここで働いている。現地を見に行くと、農園ではビニールハウスの中に30メートルほどのレーン(畝)があり、軽石が敷き詰めている。養液栽培のため手が土で汚れることもなく、清潔感の中での作業ができる。この一つの畝を使って3人一組の障がい者に1人の監督者が付いたチームが野菜などを育てている。ノルマはなくストレスを感じることなく作業ができるためか、笑顔が多く見られた。

作物の大半は企業従業員の福利厚生のために無料で配布される。
 夏場はハウスの中は高温になるため、作業時間は極力短くするなど、作業環境にも極力配慮している。できた作物の大半は障害者の所属する企業従業員の福利厚生のために無料で配布しており、売り物にはしていない。

 気になる経費負担は、例えば重度障がい者1人、軽度障がい者2人を雇用した場合、企業にとっては月つき支払う給料や利用料を含めて1人当たりの雇用負担が月18万になる。また障がい者仕様の養液栽培装置などの初期投資は約300万になるがリースにできて経費で落とせるので毎月の負担は3万円ほどになり、月別の経費として計算すると企業内で障がい者を雇用するよりも節約になるという。

自治体も関心
 エスプールプラスが8年前にこのサービスをスタートした時は、障がい者雇用に対する経営者の認識も低かったこともあり企業からは見向きもされなかった。しかし、大手自動車メーカーや大手金融機関がこのサービスを利用し始めてから、口コミで評判が伝わって契約する企業が増え始めたという。和田一紀社長は「今年は松戸、船橋でも新たに農園をオープンし、今年中には13か所に増える。ここで働く障がい者は月収約10万円の収入が得られ、就業機会のなかった障
がい者の親から喜ばれている。行政からも注目され、愛知県豊明市はこの農園を誘致してくれて、障がい者雇用の受け皿にもなっている」と話す。

 豊明市にある農園は16年11月に3000坪の広さでオープンして現在、17社の企業から69人の障がい者が働いている。このうち51人が知的障がい者で、レタスやトマトを栽培している。契約しているのは豊明市、名古屋市とその周辺にある企業。同市の社会福祉課では「農園を使った就労サービスは、『障害者総合支援法』に基づく障がい者福祉サービスと並んで、多様な就労サービスの一つとして活用していきたい」と話している。

 自治体の窓口には、障がい者の親が就職先を求めてやってくるが、仕事先を見つけるのは難しい。自治体として初めてこの農園を誘致した小浮(こうき)正典(まさふみ)豊明市長は「障がい者の法定雇用率を達成したい企業と障がい者の就労ニーズをマッチさせた事業だ」と評価している。

定着率95%
 このサービスが受け入れられている大きな理由が、ビルや工場での清掃作業などを管理会社に委託する企業が増えているため、これまで障がい者にしてもらっていた仕事が減っているという現実がある。しかも、やっている仕事の多くが、清掃や郵便物の仕分けなど単純作業が多いため長続きがしないケースが多い。それに対して、この農園の仕事は相手が農作物のため、育てる楽しみがあり、定着率は95%と高く、辞める人が少ないという。

 16年の12月からこのサービスを利用しているタイヤの販売会社のトーヨータイヤジャパンでは現在6人の障がい者が働いている。営業が中心の会社で、貸しビルに入居しているため、清掃業務などもなく、障がい者に向いた職場がなかった。このため、法定雇用率の未達になり納付金を収める状態が続いていたという。下田昌弘総務人事部長は「タイヤを製造している工場があれば障がい者の仕事を見つけることができるが、一つひとつの営業店は人数が少ないので見つけるのが難しい。困っていたところに農園で働く話を聞いて契約することにした。1カ月に1~2回はスタッフが働きぶりを見に行っているが、明るい雰囲気で楽しんで働いてくれている。費用は掛かるが障がい者の社会参加につながるので、今後も続けたい」と前向きに捉えている。

 一方、厚労省は「障がい者の雇用の場はあくまで、その企業の中でみつけてほしい。障がい者の雇用を進めるため、仕事をサポートする制度や、事業者と障がい者に対して助言などをする『ジョブコーチ』制度などもあるので、こうした制度を活用して、企業や工場の中で働ける場をみつけるのが望ましい」(高澤航・職業安定局障害者雇用対策課補佐)と考えている。

障がい者の雇用、どう増やすのか?
KDDIチャレンジドが運営する「カフェチャレンジド」=KDDI提供
カフェでいきいき
 この数年、社内で障がい者に働いてもらえる場として注目されているのが、レストラン、カフェなど飲食サービスだ。最初に始めたのではヤマト運輸元社長でヤマト福祉財団を設立した小倉昌男氏が1998年に立ち上げた銀座のベーカリーチェーン「スワン」がある。いまでは直営店4店のほかフランチャイズ22店を展開、約350人の障がい者がここで働いている。7~8割は知的障がい者で、女性が6割。ここは一般の来客もあるため、たまに釣銭の間違いなどミスが起きる。だが、「それを経験することが障がい者にとって自信にもつながるので、ミスを恐れてない。接客をすることで、内向きだった性格の改善につながるケースもある」(佐藤光浩事業開発部長)と話し、開業20年のノウハウが生かされている。

 このほかカフェを開く企業が増えている。第一生命は本店内に07年に社内の福利厚生を目的にカフェをオープンし、現在は3店で27人の障がい者が働いている。KDDIは社員用のカフェを16年に開き、大阪、新宿などにも拡大し、現在約15人の障がい者がいる。障がい者が働ける環境を目指して08年に別会社「KDDIチャレンジド」を設立、17年6月時点で403人を雇用、雇用率は2・38%になっている。カフェで働く障がい者は離職者が少なく、苦手と思われていた接客に生きがいを見出すケースもあるという。

 KDDIではカフェチームを含め携帯電話の分解、メール便の管理など約15のチームに分かれて仕事をしており、月収は約15万円弱にはなっているという。また、電通はオフィス環境を見直す中で、障がい者が働く社員用カフェの開設を検討している。

HP作成も
 キユーピーが障がい者雇用のために設立した東京都町田市にある子会社「キユーピーあい」を訪問した。03年に設立、当初障がい者は6人でスタートしたが、いまでは親会社が出すドレッシングなどの新商品の販促パンフレットやポスターの制作、伝票照合など17分野の仕事を担い、障がい者は67人となっている。3、4月は新商品関連の業務が多く、作業室内には何種類ものチラシなどの販促物が納入先ごとに並べられていた。

 この会社の特徴は、健常者の営業担当がいて、彼らがグループ会社や社外からの仕事を取ってきて分野ごとに振り分け、障がい者の雇用を広げている点だ。急ぎの業務も発生するが、期日までに納品できるように管理し、分担して進める。キユーピーグループ全体では530人の障がい者を雇用、雇用比率は3・30%(物流事業を除く、昨年12月)と頭抜けて高く、障がい者雇用の「優等生」企業とも言えそうだ。

 ホームページ(HP)の作成をする仕事は4人が担当、福祉団体のHPなど約40社の制作を請け負い、パソコン画面と向き合っている。新しいIT技術を勉強しながら、動きを取り入れた複雑なHPも作成している。今年は特別支援学校の卒業生2人を新入社員として取ったが、中途社員も多く受け入れている。障がい者の適正を見極め、定期的なカウンセリングなども行っているため、何年も働く障がい者が多く、退職率は低いという。

 障がい者の職場を社内で見つけるか、社外に求めるか、企業にとっては難しい選択だ。これからはAI(人工知能)の導入などにより、単純な仕事はAIに取って代わられる可能性がある。だが、企業にとって障がい者の雇用は避けて通れない義務だ。障がい者のとって楽しく働ける職場であるのなら、社外であっても法定雇用率を達成するためのひとつのオプションにはなるのではないだろうか。

中西 享 (経済ジャーナリスト)

2018年05月21日